今年は小学校の同級生の急逝に始まり、自分の父の急逝で終わった一年でした。ただ「死」という観点だけではなく、自分の年齢を意識した1年でした。そして、あと10年、いや15年どう生きるか、通してやりたい事は何かを意識させられました。なかなかその思いを自己実現できませんが、、、、。
さて、今年読んだ本のレビューです。
今年は70冊、上下巻などを1とカウントする作品数では66作品を読みました。(ただし「鬼滅の刃」全巻を除く)
去年が72冊に対して今年が70冊。多くの人がコロナで自宅にいることが増えて、読書量が増えたと言われていますが、私は減りました?。そんなつもりはないのですが、まぁ諸々の事情があり、結局通年して勤務形態に変化はなく、毎日通勤していたので読書量が増えるような要素がなかったですね・・・。一方で2年連続で50冊以上を読めたのは初めてでは?
今年の注目作は クラウス・コルドン作のベルリン三部作でしょう。
ベルリン1919赤い水兵(上・下)
ベルリン1933壁を背にして(上・下)
ベルリン1945はじめての春(上・下)
岩波少年文庫なので少年向けということですが、大人が読んでも、読みがいのある内容です。1919は第一次大戦でのドイツの敗戦とワイマール共和国の成立(というか、その先行きにいかに暗雲が垂れ込めていたかがわかる)。1933はナチス・ドイツの台頭と迫害。主人公の家族や友人もナチス支持者と迫害されて姿を消す人たちに別れていく。1945は第二次大戦の敗戦と、残された人たち。ドイツという国を舞台にしたこの時期の物語は、今の自分たちにとっては一種のディストピア小説ではないかと思える。
次にジャンル別。小説で良かったのは
ナオミ・オルダーマン 「パワー」
今年のキーワードの一つはLGBTQであったと思うけれど、男性上位という状況を生んだ一つの理由は言うまでもなく男性の方が腕力が強いからだ。同性に対しても、異性に対しても人間は最終的には「力」で相手を捩じ伏せて優位に立ってきた。しかし、もし女性が男性を捩じ伏せられるような「力」(パワー)を持ったならばどうなるか。
この小説中では鎖骨あたりの部分に角のような突起を持つ女性が生まれるようになり、その突起を持つ女性は「電撃」によって相手を攻撃できるようになったという設定。そういう特殊種能力を持つ女性の増加によって徐々に男性との力関係は逆転するが、では女性が上位になったときにユートピアが来るかといえば、新たな権力と権力の衝突に向かって進み始める・・・。
エンターテイメント性もあって、もっと話題になっても良いと思われる一冊。
次はノンフィクション分野。
前間孝則 「悲劇の発動機『誉』」
第二次大戦初期において日本が先頭を優勢に進められたのは零戦という戦闘機のおかげであり、機体を開発したのは三菱だが、零戦の能力支えるエンジン「栄」を開発したのは中島飛行機だった。日本軍は零戦に次ぐ新戦力、冷戦を凌駕する新兵器として戦闘機「疾風(はやて)」や「紫電改」、爆撃機「銀河」などを次々と開発させたが、これらの新戦力を支えたエンジンも中島飛行機が開発した「誉(ほまれ)」だった。しかし、これらの新兵器はほとんど活躍することもないママ終戦を迎えた。なぜなら新エンジン「誉」は大量生産・実戦投入されるとトラブル続きで試作において出していた好結果を出せなかったからだ。
零戦の成功は日本の高い技術力があったとされるが、では「誉」においてその技術力はどうなったのか?そもそもその「高い技術力」とは?
ものづくりの国・ニッポンという看板をもう一度見直しておく必要を感じる一冊でした。
エンターテイメント部門賞は(そんなもんあったんか)、
いとうせいこう 「ど忘れ書道」
いとうせいこう氏がまったく役に立たない本と断言する一冊。確かに役に立ちません、でも、読んでいてゲラゲラ笑えます。そういう本を書けるところにこの人の文章力、表現力の素晴らしさを感じます。
番外というか、佳作を3作ほど。
笹生那実 「薔薇はシュラバで生まれるー70年代少女漫画アシスタント奮戦記」
ここ最近多い漫画家のアシスタントさんによる漫画家のすごい仕事ぶり列伝もの。実際に美内すずえさんやくらもちふさこ等々、70年代から80年代に超売れっ子だった少女漫画家の人たちのアシスタントをしていた時期のエピソード集。
ラーラ・プレスコット「あの本は読まれているか」
ソ連の作家ボリス・パステルナークが書いた大作『ドクトル・ジバゴ』。ロシア革命を批判する内容としてソ連では出版ができなかった。しかし、CIAはこれを国外に持ち出し、印刷して、ソ連国民にも流布させることで自国の政治体制を知らしめたいと考えて秘密作戦を進める。パステルナークに尽くした愛人やCIAに受付嬢やタイピストとして雇用され、秘密任務についた女性たちを中心に語られる物語。
NHKスペシャル取材班 「原爆死の真実ーきのこ雲の下で起きていたこと」
爆心地から南に下がったところにある御幸橋で、焼け焦げた服をきた人々の姿をとらえた二枚の白黒写真。広島の原爆投下の写真として最も有名な写真。そして、ヒロシマに原爆が投下されたその日の原爆の惨禍を記録した写真はこの二枚以外には存在しない。
2015年のNHKスペシャルでは、この2枚の写真をもとに、この写真に写っていた人、この日の御幸橋にいた人たちに取材し、あの日、きのこ雲の下で何が起きていたのか、人がどのようにして死んでいってしまったのか、そしてどうやってごくわずかの人が生き延びたのかを明らかにしていく。
以下は今年の読書リスト(読んだ順)です。ブクログの本棚では一部コメントなども残しています。
不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲
戦場のコックたち (創元推理文庫)
一億三千万人のための『論語』教室 (河出新書)
サブリナ
黄金列車
パワー
軍用機の誕生: 日本軍の航空戦略と技術開発 (歴史文化ライブラリー)
やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)
MARCH 1 非暴力の闘い
MARCH 2 ワシントン大行進
ベルリン1919 赤い水兵(上) (岩波少年文庫)
ベルリン1919 赤い水兵(下) (岩波少年文庫)
ハロー・ワールド
文庫 悲劇の発動機「誉」 (草思社文庫)
サイコセラピスト (ハヤカワ・ミステリ)
ヒトラーとナチ・ドイツ (講談社現代新書)
薔薇はシュラバで生まれる―70年代少女漫画アシスタント奮闘記―
レス
問いのない答え (文春文庫)
ヒア・アイ・アム
戦争は女の顔をしていない 1 (単行本コミックス)
『罪と罰』を読まない (文春文庫)
タバコ天国 素晴らしき不健康ライフ
湿地 (創元推理文庫)
図説 不潔の歴史
存在しない小説 (講談社文庫)
カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺
死の海を泳いで―スーザン・ソンタグ最期の日々
IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
お砂糖とスパイスと爆発的な何か—不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門
独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)
あなたと原爆~オーウェル評論集~ (光文社古典新訳文庫)
[決定版]ナチスのキッチン: 「食べること」の環境史
ベルリン1933 壁を背にして (上) (岩波少年文庫)
ベルリン1933 壁を背にして (下) (岩波少年文庫)
原爆死の真実――きのこ雲の下で起きていたこと
イエスの幼子時代
天空の地図 人類は頭上の世界をどう描いてきたのか
ど忘れ書道
日本原爆開発秘録(新潮文庫)
素数たちの孤独 (ハヤカワepi文庫)
白墨人形 (文春e-book)
沈黙する教室 1956年東ドイツ—自由のために国境を越えた高校生たちの真実の物語
あの本は読まれているか
大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争 (幻冬舎新書)
歌え、葬られぬ者たちよ、歌え
美と共同体と東大闘争 (角川文庫)
ベルリン1945 はじめての春(上) (岩波少年文庫 625)
ベルリン1945 はじめての春(下) (岩波少年文庫 626)
遠い唇 (角川文庫)
炎の中の図書館 110万冊を焼いた大火
FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実
アメリカと銃:銃と生きた4人のアメリカ人
【新訳】吠える その他の詩 (SWITCH LIBRARY)
もう終わりにしよう。 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬 (文春文庫)
オレンジだけが果物じゃない (白水Uブックス176)
太陽がいっぱい (河出文庫)
テンペスト―シェイクスピア全集〈8〉 (ちくま文庫)
語りなおしシェイクスピア 1 テンペスト 獄中シェイクスピア劇団 (語りなおしシェイクスピア テンペスト)
「松本清張」で読む昭和史 (NHK出版新書)
それを,真の名で呼ぶならば: 危機の時代と言葉の力
刑事コロンボの帰還
昭和天皇の声
鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)
裏切りの血統
感染症社会: アフターコロナの生政治
空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
暗礁
アウシュヴィッツ潜入記