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人生最大の危機

今週のお題「人生最大の危機」

の時、どういう訳か世界は大きく揺れていた。

 


僕は小型機を操縦していた。機首にプロペラのある小型機で、大きなエンジン音があたりを覆うように鳴り響いている。

自分がいつから小型飛行機の免許を取ったのかはわからない。そもそも操縦方法といってもよく知らない。

しかし、しっかりと両手で掴んだ操縦桿で悪天候で大揺れする機体を僕は操っていた。

 


後方から微かなエンジン音がする、振り向くと後方にこちらを追いかけてくるもう一機の小型機の機影が。一体誰なんだろう?なぜこちらを追いかけてくるんだろう?と考える暇もなく、後ろの機影から二筋の一連のオレンジ色の閃光がこちらに向かって飛んできた。

 


「げっ!撃ってきてる!」思わず叫んだ。

 


そう、後ろの正体不明の小型機にはなぜか二門の機銃?のような武器が付いていて、それで僕の機を狙って撃ってきたのだ。

まるでアクション映画のようだが、エンジン音に紛れてパパパパパッという微かな機銃音と断続的な閃光を背後から浴びせられながら、僕はそれを避けようとして、闇雲に機を右に左にと蛇行させていた。

 


右、左、右、左。僕は必死だった。しかし、閃光も後を追うようについてくる。そして、次は右に避けるはずだった。操縦桿を右に倒した。機は一旦右に行こうと傾いたが、まるで大きな波にぶち当たって押し戻されるかのように下から跳ねあげられ、機首を上に向けて直立しながらそのまま下に落ち始めた。

あっと言う間もなく、機体が地面に当たった感覚がしたかと思うと、もう僕は機から外に投げ出されたのか、柔らかい土の上に俯せに倒れていた。

 


ハッと気がつくと、目の前に黒い大きな靴があった。顔を上げると巨体の男が立って、僕を見下ろしていた。

暗くて顔は見えないが、きっと僕を追っていた小型機を操縦していた男に違いない。

待て。あの僕の機に向かって機銃を撃ってきた男ということは、僕の命を狙っているはずで、今こういう状況の場合…

予想は当たっていた。男は僕の眼前に手に持った小銃?の銃口を向けた。

恐怖心で顔を伏せた時、男は引き金を引き、銃弾が僕の後頭部を砕いて、脳髄を直撃した。僕の意識は一瞬ビリビリと痺れて、身体が硬直したが、すぐに弛緩して、混濁した泥のようなものの中に沈んでいった。

 


というところで目が覚めた。

 


そこは小樽港から京都の舞鶴港まで行くフェリーの船室だった。

大学生だった1980年代後半。冬に帰省するときにフェリーを使った。しかし冬の日本海は時化ていて、船は大揺れ。手摺を使わないと廊下を歩くのに苦労するくらいだった。

僕は夢を見ていたのだ。ヒラヒラ飛行する小型機は、波に揺れるフェリーの二等寝台だったのだ。

 


夢オチなんて最悪だが、この夏、台風が接近する宮崎行きのカーフェリーも、少し揺れて、この事を思い出したのだ。今回も揺れたが、あの時ほどではなかった。その証拠に今回揺れても夢は見なかった。

つまり後にも先にも、仮に夢の中であったとしても、あれほどの危機はなかったのだ。

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台風迫る鵜戸神宮