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2022年ブックレビュー

今年の読書レビュー総括です。

今年のベストを選ぶとしたら、その上位の一冊は
「プロジェクト・ヘイル・メアリー 上・下」アンディ・ウィアー作
冒頭からコールドスリープから覚めた主人公がそこに至る経緯を徐々に思い出しつつ、不可解な事態も進行していく前半、そして新しいバディとの出会いとその熱き友情の物語の後半。一粒で二度美味しい名作!
『プロジェクト・ヘイル・メアリー 上』
『プロジェクト・ヘイル・メアリー 下』

そして、同じSF分野からもう一作。
『キンドレッド (河出文庫)』 オクテイヴィア・E・バトラー作
作家志望の女性が突然意識を失い、目が覚めると見知らぬ場所にいだ。なんとそこは南北戦争前のアメリカ南部。白人の領主の少年と親しくなるが、自分はその世界では奴隷として扱われる黒人なのだ、、、。人間としての威厳と自らの命を天秤にかけざるを得ないディストピア小説
『キンドレッド (河出文庫)』 オクテイヴィア・E・バトラー

次はノンフィクション。
全く期待をせず気軽な気持ちで読み始めた『キリン解剖記 (ナツメ社サイエンス)』 郡司芽久著。 
キリンが好きという想いだけでキリンの研究をしようと東大に入り、見よう見まねで動物園で死亡したキリンの解体や解剖を行い、それからは日本中でキリンが死ぬと駆けつけて解剖するを繰り返し、そして「キリンの首は長いが頚椎の骨の数は同じ」という定説に疑問を感じ、8個目の頸椎の役割をする骨の存在を明らかにする研究で博士になるという、研究者の熱意を感じ取れた秀逸な自伝。
『キリン解剖記 (ナツメ社サイエンス)』 郡司芽久

『コード・ガールズ――日独の暗号を解き明かした女性たち』 ライザ・マンディ著
コード・ガールズ、それは第二次大戦下の米国において、ドイツや日本の暗号解読に従事した女性たちのこと。
それは男性が兵士として出征してしまい、その人手不足を埋めるための手段だった。それは長時間椅子に座って根気よく分析を続ける作業に女性は向いているという偏見によるものだった。
その社会状況と偏見が素晴らしい成果を挙げたが、終戦とともに男性が帰国して、女性たちは再び家庭に戻っていった。その後も彼女たちは国家機密とされた自分たちの成果について多くを語る事はなかった。その歴史の秘密を明かした良書。
『コード・ガールズ――日独の暗号を解き明かした女性たち』 ライザ・マンディ著

『『焼き場に立つ少年』は何処へ―ジョー・オダネル撮影『焼き場に立つ少年』調査報告』 吉岡栄二郎
アメリカ軍の従軍カメラマンであったジョー・オダネル氏が長崎で撮影したとされる一枚の写真「焼き場に立つ少年」
これはオダネル氏が晩年になって公開したために本人の記憶が曖昧になっていて、撮影場所が特定できていないために長崎の原爆被害者であること自体への疑義や、スイス国連本部の原爆展において「直列不動の姿勢が子どもらしくない」という理由で展示を拒否されたことなどを受けて、この写真の撮影された時期と場所を特定しようとする試みの記録。
20年近く原爆に関する著作を読み続けてきたので、この写真のことは何度も見てきたし、ジョー・オダネル氏に取材したテレビ番組も何度か見たが、その新しい側面を見せてくれた。
『『焼き場に立つ少年』は何処へ―ジョー・オダネル撮影『焼き場に立つ少年』調査報告』 吉岡栄二郎

原爆関連でもう一作

『原爆投下、米国人医師は何を見たか:マンハッタン計画から広島・長崎まで、隠蔽された真実』 ジェームズ・L・ノーラン著
放射線医学に通じた産科医であったため、マンハッタン計画の最初期から参画することになったジェームズ・F・ノーラン医師。原爆投下直後の広島、長崎にも行きその影響を調査するだけでなく、戦後はアメリカの行う核実験への協力も行なったが、それらの調査と研究は国家機密であるとともに、大戦直後からアメリカは核兵器放射線の人体に対する影響を否定していたために、明らかにされてこなかった。
これらの事は当然日本と無関係ではあり得ず、アメリカが核兵器放射線の人体に対する影響認めていない状況で、日本政府が被爆者の原爆症を認めることもできなかったという状況を生んだ。
孫である著者は祖父が核兵器のもたらした勝利と悲劇にどう向き合ってきたかを追う。

『原爆投下、米国人医師は何を見たか:マンハッタン計画から広島・長崎まで、隠蔽された真実』 ジェームズ・L・ノーラン著

今年も岸本佐知子さんの翻訳本を楽しめた。
『すべての月、すべての年 ルシア・ベルリン作品集』

失敗をして閑職に追いやられたイギリス保安局(旧MI5)の窓際スパイたちの活躍を描くサスペンス 『窓際のスパイ (ハヤカワ文庫NV)』

そして何より今年もまた源氏物語を全巻通読しました♪。