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アインシュタインをトランクに乗せて:マイケル パタニティ 著 藤井留美訳 ソニーマガジンズ

アインシュタインをトランクに乗せて
アインシュタインをトランクに乗せて
本当かどうかは知らないが、日本でも夏目漱石の脳は摘出されて、標本になっているという話を聞いたことがある。
アインシュタインの解剖を担当した医師は、衝動的に(学術的な目的で)アインシュタインの脳を摘出し、最終的には自宅に持ち帰って、40年以上一緒に暮らしていた。その医師と知り合いになった僕(著者)は、脳を遺族(アインシュタインの孫娘)に返したいという医師の意志に応えるために運転手を買って出て、二人ではるばるとュージャージー州プリンストンから、カリフォルニア州バークレーまで目指す自動車旅行に出る・・・という実話である。
僕は恋人もいるいい歳なのだが、出版を間近に控えてテンパッて彼女とちょっとすれ違っている、そういう主人公のモラトリアム小説でありつつ、ちょっと特殊な老医師とのロードムービー的小説でもあり、ドキュメンタリーでもある。
しかし、「アインシュタインの脳と一緒の二人旅」というインパクトのある題材に対して、話自体は少々平坦で、ひねりにもかける。たぶん現実の世界では「何も起こらない」ものなのだろう。これがフィクションでなく、ノン・フィクションになった時点で、アイデア(「アインシュタインの脳と一緒の二人旅」)に負けてしまっているのだ。