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ぼくたちは水爆実験に使われた (文春文庫):マイケル ハリス 著 三宅真理 訳 文藝春秋

ぼくたちは水爆実験に使われた (文春文庫)
ぼくたちは水爆実験に使われた (文春文庫)
著者は1950年代、アメリカ陸軍の兵士として南太平洋の小さな島(島全体が造成され、基地となっている)に連れて行かれ、そこで水爆実験に「協力」することになった。ただ、「協力」とは別の島や海上で実施される水爆実験を島の海岸に一列に並んで見物する事だった。軍は実験は非常に安全で、問題ないと兵士達に伝えているが、実験後に雨が降り出すとガイガー・カウンターが鳴りだし、窓を閉めて外に出ないようにと言う放送が流される。(窓は錆び付いていて閉めることができないのだが・・・)
最初は事情がわからなかった兵士達も、徐々に孤独と不安に精神を蝕まれ始める・・・。
著者は退役後アメリカの三大ネットワークの一つCBSに入社し、人気番組「エド・サリバンショー」の広報を担当したこともある著名人。その著者が若い頃に体験したアメリカ軍の核に対する「人体実験」を明らかにしている。水爆実験のそばにいた海軍の兵士が基地に立ち寄った時に、髪がごっそり抜けたり、歯茎から出血したり、足の親指が発光するという明らかな被爆症状を筆者達に見せるシーンがあり、米国が国民の無知を利用して核実験を強行する様子は、被爆国の読者としてはぞっとするものがある。
尤も、本人自体は後遺症として残るような影響を受けていないせいか、そのような面に対する批判は成されるものの、少々低調な気もする。どちらかというと、孤島での生活と、真実を知らされていないという不安の中で精神のバランスを失っていく、悲惨さに重点があるような気がする。