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Google Developers Day 2009に想う

第3回目になるGoogle Developers Day 2009(GDD09)に行ってきた。今回も早々に事前登録をしていたが、仕事の都合があり、聞けるのは午前中の基調講演だけとわかっていた。
会場であるパシフィコ横浜は家から近い(時間があれば歩いて行ってもいいくらい)ので、受け付け開始の9時には余裕で到着。GDDは毎回無料だが、Googleのパワーは凄い。
一昨年の第1回の時は東京で開かれたが、参加者全員に幕の内風のお弁当(使い捨てではない容器をつかったちゃんとしたもの)が用意されていた。今年、付き合いのある会社の招待でガートナーのショーに行った。食事付きだったが一人あたり数万円した。
昨年の第2回は流石にお弁当は出なかったが、1回目と同様にTシャツなどのグッズはやはり無料の催しと思えないようなものだった。
今年は・・・。配られたグッズはTシャツではなく、タオルだった。内心、この不景気でGoogleも流石に予算を縮小するしかないのだろう・・・と思った。しかし、基調講演が終わった時、その思いは完全に裏切られた。
基調講演の中ではGoogleの様々な新情報が紹介されたが、やはりAndroid OS(Googleが開発している携帯端末用OS。今人気のiPhoneに代表されるようなスマートフォンを実現する無料のプラットフォームだ。今年、NTTドコモが対応の携帯電話を発売する)に対しては力が入っていた。しかし、それは携帯電話というデバイスを舞台にしているが、携帯電話に力を入れているというよりは、iPhoneで注目されている“App Store"の様な仕組みと、それを支える数多くのデベロッパーの育成に力を入れているのだ。
iPhoneの人気は、多くの人が語るように、その全面タッチパネルや、モーションセンサーなどのデバイスに原因があるというよりは、それを土台として個人の開発者や小規模、大規模、様々な開発会社が対応のアプリケーションを開発し、App Storeという場で配布(無料・有料の販売)ができるという点にある。そのアプリケーションによって、ユーザは自分だけの使い方を生み出せるし、開発者は自分のアイデアを評価してもらう事が出来る。
今や全世界でアプリケーションがiPhone用に開発され、ユーザに配布されている。AppStoreとiPhoneを舞台に有象無象の開発者がこぞってアプリケーションの開発を手がけている。
これは個人的な感想だが、ちょうど90年代、MacintoshやWindowsPCが普及し始めたころ、パーソナルコンピュータを買って最初にやる事は、色んなシェアウェアを入手しては、インストールして使ってみるという事だった。役に立つものや、面白いものを探して色んなソフトをインストールして遊んでいた。そういう文化の中でソフトウェアを開発する側も、個人や小さなグループが沢山いた。ただ、パソコンがどんどん普及し、OSが劇的な変化をとげるバージョンアップよりも、ちょっと便利になる程度のマイナーチェンジ的なバージョンアップしかしないようになってくると、新しいソフトを入手して試すというよりは、これまで通りのものを使い続けるケースが多かった。その結果として、個人が独自に新しいアプリケーションを作って配布するという草の根的な活動が下火になってきていた気がする。
しかし、iPhoneはある意味全く新しいプラットフォームだったので、パソコン黎明期のように新しいソフトを入手しては試すという事を皆が再びするようになった。その結果として、個人のちょっとしたアイデアが思いもかけないような人気アプリケーションを生み出すような下地ができあがったのだ。開発者の間のつながり、コミュニティの形成というものが再び大きな価値を持つようになってきた。しかし、そういう草の根的な開発者のつながりというのはiPhone登場以前は、アップルよりもオープンソースのグループやGoogle等の企業の風土を代表するものだった。個人的な見解だが、アップル自身は開発者コミュニティの形成等は、力は入れていたかも知れないが、必ずしも得意ではなかったと思う。しかし、iPhoneとAppStoreの登場で、アップルは草の根開発者の夢を実現するかも知れない舞台を提供する事になった。これはまさにGoogleのお株を奪うよな出来事だったのではないだろうか。
だが、Googleは、オープンソース・パワーの旗印を守るものとして、草の根開発者の新しい活躍の場となっている携帯アプリ市場で、同じ携帯用OSのAndroid OSでアップルに負けるわけにはいかないのだ。Android OSは鳴り物入りで登場したものの、まだまだ未知数のものだし、これまでの展開も決して順風満帆とは言えないと思う。そして、行ったGoogleの決断とは、今日の基調講演に来ていた開発者に無料でAndroid OSが動作する携帯端末を配るという行為だったのだろう。端末はSIMカードは付いていないが、自分の携帯のSIMカードを挿せば通話も可能だという(但し、定額サービスが適用されない恐れがあるので自己責任で行う事)。無線LANがある環境なら全く問題なく、Android OSを試し、自分の開発したアプリのテストなどができる。
端末は基調講演の後、受付で一人一人に配られたが、それは白に沢山のカラフルなアプリアイコンでAndroid OSのマーク(ロボットの形をしている)をかたどった、綺麗な化粧箱に入っていた。この外装の演出はまったくiPhoneと同じものだ。
かつて、数年前Googleが登場した時、それはマイクロソフトやアップルというそれまでのコンピュータ企業を駆逐する勢いさえ感じられ、Googleのスタイルにマイクロソフトやアップルが追従する感があったが、今日のAndroid OS はその立場が全く逆になり、アップルのiPhoneGoogle が必死に追いかけている感じがする。iPhoneも早々易々とは今の地位を明け渡す事はないだろう。かといって、Googleの追撃は、明らかにギアをチェンジした。ローから、セカンド、サードに入れようとしている。これは非常に脅威になるだろう。