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チャイルド44<上・下>トム・ロブ・スミス 新潮文庫

スターリン政権末期のソ連。モスクワの国家保安省(後のKGB)の捜査官であるレオ・デミドフ。彼は優秀な=国家に忠実な捜査官であったが、彼の地位を妬む部下の罠にはまり、あらゆる特権を取り上げられ、田舎の町に左遷される。そしてそこで起きた猟奇殺人の遺体の状況は彼がモスクワ時代に事故として処理した事件の被害者の遺体の状況と酷似していた。「起きる筈がない」と満足な操作も行われないままに処理されている猟奇殺人事件。しかし、それはたった一人の異常者による連続殺人ではないのか?レオの命がけの捜査が始まる・・・
理想的な国家であるがゆえに、心を病んだ国民はいない→猟奇殺人などありえない。裏をかえせば、猟奇殺人を認める事→ソ連という国家の否定→反逆罪となるために、誰も告発しようとしない。この小説を面白くさせているのは、スターリン時代のソ連のこの(我々からすれば)非常識な常識がベースにあるからだろう。国家の方針に少しでも反すれば罪に問われるという状況は、思いもよらない「揚げ足取り」の罠が使えるという事で、それがいわゆる資本主義世界ではありえない話の展開を可能にしている。
ちなみに作者はソ連に実在し、50人以上の少年少女が犠牲になった連続殺人犯 アンドレイ・チカチーロ をモデルにしているという。