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父さんが言いたかったこと(原題:The Forever Year):ロナルド・アンソニー 著 越前敏弥 訳 新潮社

父さんが言いたかったこと
父さんが言いたかったこと
主人公のジェス・シエナは両親が年老いてから生んだ末息子。もう結婚して家庭を持ってもいい歳だが、嘗ての恋愛経験の痛手が災いし、現在の恋人とも将来の約束はせず、つまらない雑誌記事を書いて糊口をしのぐフリーのライター。上の兄姉がそれなりに成功して忙しく暮らしているのに比べて、幾分疎外感と劣等感を抱いていた。そんなとき、母親が亡くなった後、一人暮らしをしていた父親が料理中にボヤ騒ぎを起こした事をきっかけに、施設に入れるべきだという兄姉達の進言に反抗して、父親を引き取り、二人で暮らし始める・・・。
解説に3分の1を読み進むまでは単調で少々退屈な話に思えたが、そこからある展開をきっかけに一気に読み進む事ができたとあるが、まさにその通りで、主人公が父親と暮らし初め、父親がある昔話を、途切れ途切れに少しずつ話し始めるに至って、小説全体の基調が変わり、一気に引き込まれる。自分の経験からまだ最後まで聴いていない父親の昔話の顛末を推測してしまう主人公に対して、結末はおまえにはわかりっこないと語る父親。そして、父親が昔話を一気に全て話しきるのではなく、少しずつ話した理由、話さざるを得なかった理由が明らかになった時、実はこの小説は父親が息子に遺すメッセージであると同時に、男性の側から見た、父であろうと、息子であろうと、大人になった男性にとっての共通「恋愛小説」である。