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ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 上/下 ディヴィッド・ハルバースタム著 山田 耕介 /山田 侑平 訳 文藝春秋


1950年6月25日北朝鮮人民軍が朝鮮半島の38度線を突破した。東京にいた連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサーは情報機関から数多くの警告を受け取っていたにも関わらず、北朝鮮の侵攻はないと確信していたために虚を突かれ、折から要員数、軍備共に大戦直後に比べると大幅に削減していた米軍と訓練不足の韓国軍は総崩れとなる。
その後、起死回生の仁川上陸作戦で北朝鮮軍を押し返したマッカーサーだが、自身のプライドと、トルーマン大統領に対する反発から中国国境近くまで北上して、毛沢東を刺激してしまい、中国義勇軍からの反抗を受けて再び戦局の行方はわからなくなってしまう・・・。
朝鮮戦争は第二次大戦やベトナム戦争と異なり、米国に於いてほとんど語られることの無い、忘れられた戦争と呼ばれているそうである。しかし、一方で人種的偏見・アジア蔑視からくる司令部の慢心、慣れない気候(朝鮮戦争の場合は寒さ、ベトナム戦争の場合は暑さと湿度)や地勢での苦戦など、その後のベトナム戦争に繋がる要素、教訓が多く含まれていると著者のハルバースタムは語っている。
本作は著者のデイヴィッド・ハルバースタムの遺作である。彼は本書の最後の校正を終えたあと、次作の取材に向かう途中で交通事故に遭遇して死亡した。本書の他に、彼が追求したベトナム戦争(「ベスト・アンド・ブライテスト」)、日米自動車産業の盛衰(「覇者の驕り」)など、代表作はいずれも先頭にたつ指導者の慢心、エゴがその手足となって働く者たちを泥沼へと引きずり込んでしまうという点を描いてきた。どの作品も印象深いものばかりだ。合掌。