Since 1996

アメリカの反知性主義:リチャード・ホーフスタッター 著 田村哲夫 訳 みすず書房

アメリカの反知性主義
アメリカの反知性主義
もともと投票結果に関する疑惑もあった一期目の選挙、そして9.11テロに関する様々な問題が明るみに出てきて、誰もが二期目の再選は難しいのではないかと思っていたら、当選してしまったジョージ・W・ブッシュ。ブッシュの背後にはキリスト教福音派がいて、それがブッシュのそして共和党の票の源泉となっていたことは周知の事実だが、何故、あまりにも無批判にブッシュを支持してしまうのか?それは現代にあって進化論を信じず、聖書の記述を真実と信じて疑わない福音派の主張と相通ずるものを感じる。しかし、一方で、アメリカの殆どの人たちは「インテリ」を嫌うという。二期目の選挙で民主党の候補だったジョン・ケリーは若い頃欧州にいたせいで流暢にフランス語を喋るそうだが、そのことが選挙活動中にマスメディアに取り上げられると、ジョン・ケリー=インテリという図式ができあがり、アメリカの中・下流層からの支持を失ったという、本とか嘘かわからないような話がある。
しかし、同じような話が50年前にもあった。1952年の大統領選挙である。民主党はアドレー・スティーブンソン、共和党はドワイト・D・アイゼンハワーが大統領候補だった。アイゼンハワーは根っからの軍人で政治的経験が乏しいばかりか、政治に殆ど興味が無く、選挙で投票したこともなかったと言われていた。副大統領候補のニクソンは金銭問題のスキャンダルをお涙ちょうだいの茶番劇的な演説で煙に巻いた。当時はマッカーシズム赤狩り旋風が吹き荒れていたが、共和党内部でもマッカーシーに対する抵抗も始まっていた。
一方で民主党候補のスティーブンソンは大学での弁護士出身で、政治との関連も深く、国連の代表も務め、大統領選に出るまではイリノイ州の州知事だった。
政治家としての資質は火を見るよりも明らかであったにも関わらず、選挙では戦時指揮官としてのアイゼンハワー人気が圧倒的な力を見せて、大差をつけてアイゼンハワーが勝利した。実は4年後の56年の選挙も同じ顔ぶれで戦われ、再びアイゼンハワーが大勝利を収めた。
筆者はここに、アメリカという国の国民の中に「知性」、「知識人」というものに対する反発心が在るのではないかと分析する。それはアメリカの宗教や、教育、文化などの様々な局面の中で表れているのではないか?それを「反知性主義」と名付けて、アメリカの19世紀から20世紀の歴史の中でどのような経緯をたどってきたのかを辿っていく。
1964年のピュリッツァー賞を受賞した本作は、40年前に書かれた作品だが、現代に明らかに通じるアメリカの姿を描いているという気がする。