トランク
ポーランド旅行の話の続き。
ポーランド旅行に行った理由のもう一つはこの収容所を見るためだった。
予想に違わず、いや予想できなかったような凄さだったというべきか。どうしてここまでできるのか、理解ができない感じだった。
その中で印象的だったのは、トランクの山だ。収容所に連行される時、人々は身の回りのものを鞄に入れて来たが、それらは没収された。そのときに(返してもらうときのために)鞄に名前を大きく書いていた。中には住所のよう見えるものまで書いてあるものもある。
黒や茶色の皮のトランクに白いペンキのようなもので大きく。
そういうトランクが山積みされているのだ。
その時ふと、疑問に思った。
名前や住所が書いてあるなら、その人は不幸にも収容所で亡くなったとしても、遺品として鞄を引き取る遺族はいなかったのだろうかという疑問だ。
その答えはあった。
強制連行は多くの場合、村単位などで身内全員が一度に連れて行かれたので、遺品を受け取る人が生き残っていないのだということだった。
その解説を聞いて、もう一度トランクの山を見つめて、ため息以外に何も出てこなかった。