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ジョン・ウェインはなぜ死んだか 広瀬隆 著 文藝春秋

ジョン・ウェインはなぜ死んだか
ジョン・ウェインはなぜ死んだか (文春文庫)

ジョン・ウェイン、スティーヴ・マックイーン、ゲイリー・クーパーヘンリー・フォンダ、・・・アメリカのハリウッドを支えた名優の多くが癌を患って他界しているのは何故なのか。
1950年、ネバダ州のネバダ核実験場で頻繁に核実験が行われていた。アメリカ政府は核実験によって恐ろしい死の灰が風に乗って遠くまで運ばれる事についてはその危険性を隠していた。死の灰が蓄積したネバダ、アリゾナ、ユタでは癌患者の数が増加し始めていた。そして、その場所はハリウッドの西部劇映画のロケが頻繁に行われ、アメリカの名優達は、数ヶ月もロケ地に滞在して映画を撮影していた・・・。
広島、長崎の原爆投下直後から死の灰や放射能汚染による被爆の人体への影響を「安全」と言い切って来たのがアメリカ政府であり、当時冷戦のまっただ中にあって、アメリカに肉迫する形で原爆実験、水爆実験に成功して来たソビエト連邦に対抗するために、核実験は国の命運をかけてすすめていた最重要事項だった。この広瀬氏の著作が発表された時は僕はまだ中学生くらいだから、細かい事は覚えていないが、結構論議を呼んでいた事は記憶している。
その後、病気の患者に無断でプルトニウムを体内に注入し、その影響を調べるという事をやっていたり(これはアメリカ政府も認めている)するから、20年後、この本を読んで、「安全」と国民を騙して砂漠で核実験をするくらいは「やるだろうなぁ」と納得してしまう。
だから、広瀬氏の仮説は多分正しいと思うのだが、一方でそういう知識を排して読んだ場合、やはり気になるのは提示されている情報が偏っているのではないかという事だ。例えば、一般の市民が近隣の住民のほとんどが癌によって亡くなっているという事に気がついて、核実験との関連性を疑い始めて訴訟へと発展して行った事にしても、その事例だけを取り上げるのではなく、調査報道としてはそれ以外の近隣地域ではどうなっているのか?他の州ではどうなのか?というデータを調べて、比較検討して見せなければならないだろう。
ハリウッドスターが実験場の風下地域で頻繁にロケをしていたから放射能の影響で癌の発症率が上がったという仮説についても、そのロケ地を使う頻度の少なかったスター達についても調査するべきではないだろうか。一部、ハリウッド内でのセット撮影のために、ロケ地の砂をハリウッドに大量に持ち帰ったために、ハリウッド事態が放射能汚染され、ハリウッドスター自体の癌の発生率が上がっているとも取れる記述があった様に思える。じゃぁ、東部のテレビ関係者の発癌率等と比較してみては?とか、単純に本書だけで見た場合、「?」と素直に頷けなくなるところはある気がする。