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スティーヴン・J.・グールド 鈴木善次/森脇靖子 訳 河出書房新社

人間の測りまちがいー差別の科学史ー
人間の測りまちがい―差別の科学史
人間には、人種には生まれながらにしての先天的な「質」があり、その質は環境や教育によっては改善できず、社会的、経済的な地位や階級もまたその質を具体的に表したものであるとする生物学的決定論。その根拠となる「質」の計測方法は時代とともに変遷してきた。
古くは頭蓋骨の大きさや、形状が尺度であり、最近はIQと呼ばれる知能テストである。これらの計測から得られた「事実」は、計測者の無意識的、または意識的な操作によって、大抵は有色人種を白色人種に比べて劣悪なものであると主張するグループにとって都合の良いように解釈が行われ、時には事実の改竄や捏造も行われてきた。
グールドは進化学者(進化学も上記の主張をする人々によって、ねじ曲げられて解釈されてきた)、そして科学史学者として、これらの差別の科学史を掘り起こし、彼らの主張が繰り返し否定されては、(ほとんど新しい事実もなく、形だけの修復や、事実をねじ曲げた解釈によって)蒸し返されてきた歴史をたどる。
特にIQに関する物語が印象的である。IQを測る知能テスト自体は、高度知能障害をもつ人々を早期に発見し、早期に適切な教育やケアが受けられるように考案されたものであった。考案者であるアルフレッド・ビネーはこの知能テストはその様な障害を持つ人々に対して行うべきものであり、決して一般の人々に受けさせるつもりは無かった。またこのテストは生得的な能力を測るものではなく、適切な保護と、教育を受けさせる事で、彼らを努力によって高みに引き上げる事を目的としていた。しかし、後進の科学者は、これを全人間に受けさせる事によって人間、人種をランク付けするだけでなく、人間の生得的な能力を測るもの、すなわちIQテストの結果は教育や環境と言った後天的な要素に左右されない、生まれながらにしてその人物が持っている能力を測るものとして用いるようになってしまった。そして、彼らはIQのポイントの低い人たちを高みに引き上げる努力をするのではなく、教育などでは変わり得ない劣悪な人種として、切り捨てようとしたのである。
測りまちがい(mismeasure)とは、測り方(計測方法)の誤りであると同時に、計測を行う人間の誤りでもある。