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9.11を前にして

人間の記憶って当てにならないなと思うのは、9.11にしても、あの事件以来何度となくワールドトレードセンタービルの映像を見ているので、それがあの日、あのとき、リアルタイムで見ていた映像なのか、その後のニュースで見ていた映像なのか、いったいいつ、どの時点から自分はあの瞬間に巻き込まれていっていたのかわからなくなっているからだ。
たしか、最初に気がついたのは朝日新聞のasahi.comを見ていたら、アメリカのトレードセンタービルに小型(たしか、小型となっていたと思う)飛行機が衝突した模様という記事が載っていたのだ。
昔、モスクワの赤の広場に小型飛行機で着陸した奴がいたと思うが、何かそれに似たデモンストレーションだろうかと思った。そうだ、こういう時はCNNのサイトでも見てみれば・・・とCNN日本語版ではなく、CNN本家のページ に行って見た。別にスラスラ英語が読める訳ではないが、明らかに何か異常だった。何故なら天下のCNNのトップページがレイアウトも乱れためちゃめちゃな構成になっていたからだ。ただ、ハッキングされたというよりも、何かとてつもない異常事態が起きていて、それを必死に伝えるようとしているような感じだった。
「そうだ、ケーブルテレビ!」
と思いついて、ケーブルテレビでCNNのチャンネルを呼び出したら、ワールドトレードセンタービルから煙が出ているシーンが映っていた。それほど近い場所ではなくて、遠くから撮っている感じだったと思う。2機目が突っ込んだのはその少し後だったように思う。
片方のビルが崩れ落ちていったのも覚えている。まるで映画みたいだと感じたことを覚えている。寝てしまっていたカミサンを起こしにいったのは、その後だ。この辺りから、ビルの近くの路上から撮られた旅客機激突時の直後の映像が繰り返し流されていたと思う。路上のマンホールのそばで消防隊みたいな格好をした人たちが何か作業をしているところを、その真上あたりを轟音だけが通り過ぎていく、作業をしていた人たちは「何だ?」と怪訝そうに空を見上げる。視線は飛行機のスピードについていけておらず、何が上を通り過ぎていったのか全然わからないという感じだ。しかし、そのすぐ後にもっと大きな轟音。慌てて皆がセンタービルの方を向く・・・。
もう一つ覚えていることは、妙な既視感を感じたことだ。実は自分が見た夢で忘れられないような強烈な印象を残した夢と9.11は通じるものがあったからだ。結婚して子どもができた頃、多分今から10年くらい前だが、僕は自分の住んでいる町がミサイルのようなもので攻撃を受けるという夢を見た。「ミサイルのようなもの」と書いたのは、夢の中ではそれが何なのか僕にはわかっていないからだ。僕は外出していて家に帰る途中なのだが、電車の窓から、遠く自分の家がある方向(多分横浜)を見ると、住宅街の中から太く黒い煙の筋がもくもくと空にのびていて、その煙の根元あたりからは時折煙に隠れて赤いオレンジ色の炎らしきものが見えているだけ。しかし、その煙の量は単に「火事」という程度のものではなく、街の一角が、そしておそらくそこは自分の家族の住んでいる場所あたりと僕は直感している場所が、何かどうにも取り返しのつかない状態になっていることを示していた。
その夢を見たとき、自分でも「テレビの見過ぎ」と思ったが、まさにケーブルテレビの映像はそれよりもっとすごいものを映していた。
でも、数年後、僕は映画館で最も強烈な9.11の映像を見る。マイケル・ムーア監督の「華氏9.11」だ。この映画が始まって数分後、9.11の瞬間がやってくる。しかし、その瞬間、スクリーンは真っ暗になって、ただその瞬間のごうごうと張り裂けるような轟音と、それに紛れて聞こえてくる人間の悲鳴だけが数秒間ながれる。まさに、その瞬間、真っ暗なスクリーンに僕たちは、それぞれが見た、記憶している、最も強烈な9.11の瞬間を映し出して、見ていたのだ。
あの9.11のとき、多くの人が一気に生を失った。しかし、それでも、同じように1秒は、1秒で、今この1秒にも、世の中のどこかで誰かが死に、誰かが生を受けているかもしれない。世の中というものの、なんと冷静なことか。
イデオロギーがどうであれ、あの9.11の時に色々な形で生命を失った人たちを悼む。