我々はタコから学ぶことがたくさんあります
かつてニュースステーションというテレビ朝日系列で、久米宏氏が司会を務める大人気生放送テレビ番組があって、その番組にコメンテーターとして、今は亡くなられたが作家の立松和平氏が出演されていた。
立松氏は中継で山や海の自然を紹介するようなコーナーを担当していたと思う。
立松氏の問題のコメントはダイバーと組んで海中の様子を紹介していた時に発せられた。
ダイバーは海中にいたタコを見つけ、その様子を紹介した。ある意味ありきたりの映像だ。しかし、それに対して立松氏が方言交じりの朴訥とした口調でこうコメントしたのだ。
「われわれはタコから学ぶことがたくさんあります」
夜の人気ニュース番組で、人間はタコから学ぶことがある、と言い切ったのだ。
イケナイ事ではないが、生放送のスタジオの出演者と、その番組を見ていた1500万人ほど(番組の平均視聴率は14.4%)の視聴者全員凍りついたように感じた。僕も少し動きが止まり、ちょっと失笑した。タコに失礼なこと極まりないが。
僕は読書好きなインドア派だ。誤解を恐れずに言えば、世界を動き回るより、じっと本を読み続けている方が僕には向いているし、世の中を知れるような気がしている。
なぜならそうやって僕は過ごし、発見をし、ショックを受け、反省し、成長してきたと思うからだ。
中学生の頃一冊の本に頭を殴られたようなショックと感動を受け、生き方を変えようと思った。
大学生の時に病気で入院を余儀なくされ、落ち込んでいた時に自分を一番支えてくれたのは、ベッドの下に隠した本だった。
子どもを持つ親になってから、泣いてしまったのも本を読んでいる時だ。
ターニングポイントの多くには本が関わってきた。
本が僕に与えてくれたものより大きな影響を与えたものはそうそう多くない。
そんなに読んでどうするのか?と思うが、読まずにはいられない。それが僕と本の関係だ。
今日も会社の帰りに一冊の本を借りてきた。
タイトルは「タコの心身問題」という。
Amazonの説明にはこうある「人間とはまったく異なる心/内面/知性と呼ぶべきものを、彼らはもっている」と。
そう立松和平氏をして「学ぶことがたくさんある」と言わしめたタコにあるかもしれない心について書かれた本らしいのだ。
あの時、失笑した僕をタコが見返そうとしている。
こんな出会い、本以外では経験できない。
- 作者: ピーター・ゴドフリー=スミス,夏目大
- 出版社/メーカー: みすず書房
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